理容と美容で求められるものの違い
このテーマはとても大きなテーマで、多様な観点がありますし、私のような若輩者が語るのはおそれ多いことなのかもしれませんが、「こういう観点もあるのでは?」という意味で、述べさせていただきます。
ご承知のとおり、理容と美容の違いは、理容師法第1条の2と、美容師法第2条であらわされています。
そこで述べられている「方法」の違いが論じられることが多いのかなと以前から感じていましたが、本質的には、「方法」ではなく、「目的」のところ、すなわち、「容姿を整える」と「容姿を美しくする」の違い、それも、物理的な「整える」と「美しくする」というよりも、それによって得られるお客様の精神的充足感の質の違いに、私は興味を覚えます。
あくまでも、私の感覚なんですが、理容店が男性のお客様を主対象とし、理容師法もそう想定している?と私には受け取れることも加味すると、「整える」ことによっての精神的充足感のイメージを表現するキーワードは、サッパリ、落ち着き、いつもの、日常、安心といったところかなと感じます。
これに対して、「美しくする」ことによっての精神的充足感のキーワードは、華やぎ、ウキウキ、新しい自分、日常の中の非日常といったところかなと感じます。
言ってみれば、前者が、静かな心のここちよさに関係するホルモンとされる「オキシトシン」的充足感、後者が、動的な快という感情に関係するホルモンとされる「ドーパミン」的充足感の様にも感じます。
もちろん、美容室でも、落ち着きや、安心といった充足感は求められるでしょうし、理容店で華やぎやウキウキが求められもするでしょうが、それでも、どうも本質的には、こういった違いはあるように、理容師さん、美容師さん双方とおつきあいさせていただいてきた、そして、人生の中で、両方を消費者として利用してきた私には感じられます。
以前より、男性の方で、若い方を中心に理容店ではなく美容室を利用する比率が高くなってきていて、それが、近年ではもう少し上の年齢層にまでひろがっているという声はよくお聞きします。
その一方、あくまでも私の感覚ですが、「自分はやっぱり、どうしても散髪屋さんの方がいい」という方のお声もまた、少なからず存在するのも事実であり、むしろ、近年、よく聞かれる様な気もします。そういうお客様は、やはり、決めた理容店はなかなか変えないし、何十年も通ったりなさるのでしょうね。そういったお客様は、理容店での本質的な精神的充足感、落ち着きや安心感、日常といったものに、高い価値を感じていらっしゃるのではないかと、そう思えたりします。
となると…理容店が華やぎやウキウキの美容系の方向性を強化するのももちろん一つの方向性ですが、逆に、本来の落ち着きや安心感といった精神的充足感を一層強化する、原点強化の方向もまた、とても有効なのではないでしょうか。
美容室についても、逆方向での、同様なことが言えそうな気がします。
私は、理容も美容も、それぞれ大切な文化だと思っています。もちろん、その融合はあって然るべきですし、それによる消費者のメリットは、歓迎です。でも、それによって、もし、万が一でも理容なら理容としての「らしい」文化、美容なら美容としての「らしい」文化が損なわれることがあった場合は、とても悲しいこと、社会の損失ではないかと感じます。
さ、落語「浮世床」でも聞いてみましょうか…
韓国映画「大統領の理髪師」も感動できる作品ですね…
それでは。